タイの電力料金が5バーツ/kWh(約21円)を超える見通しだ。Nation Thailandによると、カタールの天然ガス施設で爆発事故が発生し、LNG(液化天然ガス)のスポット価格が一夜にして11ドルから25ドル/MMBTUに倍増。タイの電力の57%は天然ガスで発電されており、その半分をLNG輸入に頼っている。中東紛争と合わせ、タイのエネルギーコストが急上昇している。
なぜタイの電力料金が急上昇するのか
タイの電力料金がここまで敏感に反応する理由を、1つずつ整理する。
まず、タイの発電構造がある。タイは電力の57%を天然ガスで賄っている。石炭(約20%)や再生可能エネルギー(約15%)に比べ、天然ガスへの依存度が突出して高い。しかもその天然ガスの約50%は海外からのLNG輸入だ。国際価格が動けば、電力料金に直結する。
次に、カタールの爆発事故だ。カタールは世界最大のLNG輸出国であり、同国の施設での事故はグローバルなLNG供給に直接影響する。スポット価格が11ドルから25ドルに倍増したことで、タイの電力会社の調達コストが跳ね上がった。
さらに、中東紛争(米国・イスラエルのイラン攻撃)による原油高もLNG価格を押し上げている。Foreign Policyの分析では、タイとシンガポールが中東紛争による天然ガス価格上昇の影響を最も受けやすいASEAN諸国だと指摘されている。
タイの電力料金は「基本料金+Ft(燃料費調整額)」で構成されます。Ftは4ヶ月ごとに見直され、天然ガスやLNGの調達コストに連動します。つまり、LNG価格が倍になれば、次の見直し期(5〜8月期)に電力料金が大幅に上がる仕組みです。2026年1〜4月期は3.88バーツ/kWhでしたが、5月以降は5バーツ超が見込まれています。
タイ政府の対応 — 石炭火力の復活も検討
Bangkok Postによると、タイ政府はエネルギー規制委員会(ERC)による5〜8月期の料金見直しを前に、90億バーツ(約370億円)の財政バッファーを使って料金上昇を抑える方針だ。しかし、LNG価格の高騰が続けば財政バッファーだけでは吸収しきれない。
Nation Thailandの報道では、タイ政府はLNG依存度を下げるために、石炭火力発電所の再稼働や国内天然ガス田の増産も検討している。しかし石炭火力はCO2排出の増加を伴い、タイが掲げるカーボンニュートラル目標(2050年)との矛盾が生じる。短期のコスト抑制と中長期の脱炭素のバランスが問われている。
日本企業への影響 — 工場・ホテル・小売のコスト増
タイには約6,000社の日系企業が進出している。電力料金の上昇は、業種を問わず広範な影響を及ぼす。
第一に、製造業だ。タイ東部の工業地帯(EEC)には自動車、電子部品、食品加工など日系メーカーが集積している。電力料金が3.88バーツから5バーツ超に上がれば、約30%のコスト増だ。利益率の薄い部品メーカーには大きな打撃となる。
第二に、サービス業だ。日系ホテルチェーン、小売店、飲食チェーンはいずれも電力を大量に使う。Bangkok Postが報じたように、ソンクラーン(タイ正月、4月中旬)に向けてホテルが料金を引き下げている中での電力コスト増は、収益を圧迫する。
第三に、輸送コストだ。ガソリン・ディーゼル価格も上昇しており、物流コストが増加。工場から港までの輸送費が上がれば、タイからの輸出競争力が低下する。
日本企業・ビジネスパーソンが意識すべき3つのポイント
1. 5〜8月期の電力料金改定を前提としたコスト計画を立てる。3.88バーツ→5バーツ超への上昇(約30%増)を織り込んだ予算修正が必要だ。特に電力消費の大きい製造ラインを持つ企業は、省エネ投資のROIが大幅に改善するタイミングでもある。
2. タイの「天然ガス57%依存」は構造的リスク。今回の電力料金急騰は一時的なものではなく、LNG依存度が高い限り繰り返される。自社工場への太陽光パネル導入やPPA(電力購入契約)など、エネルギー調達の分散を検討すべきだ。
3. タイ vs ベトナム・インドネシアの製造コスト比較を見直す。タイの電力料金がASEAN域内で高止まりすれば、製造拠点としての競争力が相対的に低下する。ベトナムやインドネシアへの生産移管を検討する際、電力コストの比較は従来以上に重要な判断材料になる。

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