インドネシア発のコーヒーチェーン「Kopi Kenangan(コピ・クナンガン)」が快進撃を続けている。コーヒー業界メディアPerfect Daily Grindは最新分析(3月24日)で、The Business Timesが報じた1月の通期決算で初の黒字化を達成したことを引用した。直近の純利益は1,700万ドル(約27億円)、売上は前年比45%増の1億8,400万ドルに達するなど、インドネシアのスペシャルティコーヒー市場の急成長が注目されている。ジャカルタの1坪の屋台から始まったこのブランドは、現在6カ国1,324店舗を展開する企業に成長している。
なぜインドネシアのコーヒー市場は爆発的に伸びているのか
Kopi Kenanganの成功は、インドネシアのコーヒー市場全体の成長と切り離せない。段階を追って見ていこう。
まず、インドネシアには世界最多の約46万2千のコーヒーショップがある。日本の約7万店(全日本コーヒー協会調べ)と比べると、その6倍以上だ。しかもこの数は急速に増え続けている。
次に、消費量の変化がある。Perfect Daily Grindの分析では、インドネシアのコーヒー消費量はパンデミック以降に3倍に増加し、2025年には480万袋(60kg換算)に達した。世界第5位のコーヒー消費国であり、アジアで最も成長が速い市場だ。
この急成長を支えているのが、インドネシアの人口構成だ。人口2億7千万人のうち約40%が20〜40歳。つまりZ世代とミレニアル世代が人口の4割を占める。この若い世代にとって、コーヒーショップは単にコーヒーを飲む場所ではない。仕事をする、友人と会う、SNSに投稿する「サードプレイス(自宅でも職場でもない第3の場所)」だ。世界の都市部消費者の60%がコーヒーショップを仕事や打ち合わせに使っているというデータもある。
Kopi Kenanganは「サードウェーブの味をセカンドウェーブの価格で」を掲げています。スターバックスのような高単価カフェ(3〜5万ルピア=約300〜500円)と、屋台コーヒー(5千ルピア=約50円)の間の価格帯(1.5〜2.5万ルピア=約150〜250円)を狙い、テイクアウト中心の小型店舗で展開。アプリによる事前注文・決済を主軸に据え、月間アクティブユーザーは150万人(前年比116%増)。デジタルエコシステムで470万人の新規顧客を獲得しました。
Kopi Kenanganの強さ — テクノロジーと「ちょうどいい価格」
Kopi Kenanganが他のコーヒーチェーンと一線を画しているのは、テクノロジーの活用だ。CEOのエドワード・ティルタナタ氏は「2025年の成長はテクノロジーと計画的な拡張によるもの。デジタルエコシステムを通じて470万人の新規顧客を獲得し、347店舗を追加しながら収益性を改善した」と語っている。
アプリで事前注文し、店舗でピックアップする「グラブ&ゴー」モデルにより、店舗面積を最小限に抑えつつ回転率を高めている。客席を減らす代わりに賃料コストを下げ、テイクアウト需要に特化した。この戦略が功を奏し、インドネシア国内の売上は前年比40%増の2.3兆ルピア(約230億円)、既存店売上は15%成長した。
海外展開も加速している。マレーシアでは158店舗に拡大し、売上はほぼ倍増。シンガポール、フィリピン、オーストラリア、インドにも進出済みだ。パンダンラテやコピスス(甘いコンデンスミルク入りコーヒー)など、インドネシアのローカルフレーバーを武器にASEAN全域で存在感を高めている。
日本の飲食チェーンにとっての示唆
Kopi Kenanganの成功は、日系飲食チェーンがASEANで戦う上での重要なヒントを含んでいる。
第一に、価格帯の設定だ。インドネシアでは、スターバックスは「ステータス消費」として一定の客層を掴んでいるが、日常使いには高すぎる。Kopi Kenanganは「毎日通える品質と価格」で大衆市場を席巻した。日系チェーンがインドネシアに進出する際も、日本の価格をそのまま持ち込むのではなく、現地の「ちょうどいい」価格帯を見つけることが成否を分ける。
第二に、デジタルファーストの店舗設計だ。Kopi Kenanganの店舗は、客席よりも調理スペースとピックアップカウンターに面積を割いている。注文はアプリで完結し、店舗は「受け取り場所」に特化している。この設計は、賃料が高い都市部で利益率を確保する上で極めて合理的だ。
第三に、ローカルフレーバーの力だ。パンダンラテ、グラメラ(ヤシ砂糖)入りコーヒーなど、インドネシアの食文化に根ざしたメニューが差別化の武器になっている。日系チェーンが「日本のメニューをそのまま出す」のではなく、現地の味覚に合わせたローカライゼーションがどれほど重要かを示す好例だ。
実際、ファミリーマートは「FamiCafé」ブランドでインドネシアのコンビニコーヒー市場に参入しており、日系企業もこの成長市場に注目し始めている。
日本企業・ビジネスパーソンが意識すべき3つのポイント
1. インドネシアの「Z世代×コーヒー」市場は2030年に126億ドル規模になる。人口の40%が20〜40歳というインドネシアの人口ボーナスは、飲食・小売ビジネスにとって巨大な機会だ。ただし、Kopi Kenanganのような強力なローカルプレーヤーが既にいる市場で、日系チェーンは差別化戦略が不可欠だ。
2. 「アプリ×テイクアウト」モデルはASEAN飲食業の標準になりつつある。Kopi Kenanganの月間アクティブユーザー150万人、デジタル新規顧客470万人という数字は、リアル店舗の価値がデジタルとの融合で再定義されていることを示す。日系飲食チェーンもGrabやGojekとの連携を前提とした店舗設計を考えるべきだ。
3. インドネシア発ブランドの「ASEAN逆輸出」に備える。Kopi Kenanganは既にシンガポール、マレーシア、フィリピン、オーストラリア、インドに進出している。かつては日系チェーンがASEANに「進出する」一方通行だったが、今やインドネシア発のブランドが日本を含むグローバル市場に「逆輸出」する時代だ。競合としてだけでなく、提携やフランチャイズの相手としても注視すべきだ。

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