プラボウォ大統領が就任後初の訪日 — ホルムズ危機が日本とインドネシアの「戦略的パートナーシップ」を加速させる
インドネシアのプラボウォ・スビアント大統領が3月29日〜31日の日程で就任後初の公式訪日を実施した。天皇陛下との会見と高市首相との首脳会談が行われ、投資・エネルギー・海洋・デジタルの4分野で協力を強化することで合意した。タイミングは偶然ではない。中東のホルムズ海峡封鎖という危機が、日本とインドネシアを「同じ船に乗った」関係へと押し上げている。
なぜ今、この訪問が重要なのか
日本とインドネシアはともに、エネルギーの大半を中東に依存している。日本は原油の9割近くを輸入に頼り、そのうち中東比率は約90%だ。インドネシアも石油輸入の25%が中東経由で、現在の備蓄は約20日分しかない。
2026年2月末以降、米国・イスラエルとイランの軍事衝突によってホルムズ海峡の通航量は95%減少した。ブレント原油は1カ月で36%急騰し、現在112ドル超で推移している。この危機の中でプラボウォ大統領はエネルギー担当大臣を訪日団に同行させた。「エネルギーの話をしに来た」という意思表示だ。
首脳会談の核心 — 鉱物・原子力・JETPの3本柱
今回の訪日の直前、3月15日には日本・インドネシア間で重要鉱物と原子力に関する協力覚書(MoC)がすでに締結されている。具体的にはニッケル・レアアースなどインドネシアが豊富に産出する鉱物資源と、日本の原子力技術を組み合わせる枠組みだ。
ニッケルはEV(電気自動車)バッテリーの主要原材料だ。インドネシアは世界最大のニッケル産出国であり、日系自動車メーカーにとって死活問題に近い重要資源だ。これまでインドネシアは原鉱石の輸出を禁止し、国内での精製・加工を義務付けてきた。日本がこのサプライチェーンに深く関わることで、中国に依存しない調達ルートを確保できる。
もう一つの柱がJETP(公正なエネルギー移行パートナーシップ)だ。日本は214億ドル規模のJETPの主要出資国として、インドネシアの脱炭素化を支援する。ただしホルムズ危機でLNG価格が48%上昇している現状では、「いますぐ再エネに切り替えろ」とは言えない複雑な状況でもある。
G7・EU主導で、新興国の「脱炭素化」を資金面で支援する枠組み。インドネシアへは214億ドルが拠出される計画で、石炭発電から再生可能エネルギーへの転換を加速させることが目標。日本はアジア向けJETPの主要出資国だが、エネルギー危機下での移行加速には経済的な摩擦も生じている。
エネルギー危機が生んだ日本企業のビジネスチャンス
危機は商機でもある。東レはホルムズ海峡封鎖でナフサが2月末比70%超急騰したことを受け、樹脂・炭素繊維・産業用繊維に原材料価格サーチャージを導入した(Nikkei Asia、3月27日)。ASEAN各国の製造拠点を含むグローバルな価格改定だ。自動車部品・電子部品メーカーなどASEAN進出日系企業へのコスト転嫁が進む。
一方、出光興産(35.1%出資)と三井化学(4.7%出資)が参画するベトナム最大のギソン製油所(日量20万バレル)は、中東産以外の代替原油を確保することに成功し、5月末まで操業を継続する見通しだ。Q1は設計能力の120〜125%という高稼働で運転している。ベトナム政府はすでに日本に石油備蓄の共有を要請しており、日本企業の存在感が高まっている。
2025年の投資実績と今後の見通し
数字でみると、2025年の日本のインドネシアへの実現投資額は31億ドルだった。ASEANの中でもインドネシアは日本企業の投資先として大きな位置を占める。プラボウォ政権はプレシデン・ジョコウィ前政権が始めた「下流産業化(原材料を国内で加工して付加価値を高める)」政策を引き継いでおり、ニッケルの精製からEVバッテリー製造まで垂直統合を目指している。この方向性と日本の技術力・資金力は、原則的に合致する。
ただし、インドネシア経済にはリスクもある。OECDは2026年の成長率予測を5.1%から4.8%に下方修正した。ルピアは1ドル=17,000ルピアを突破し、国内インフレは4.76%に達している。エネルギー補助金の財政負担も重くのしかかる。投資環境としては不確実性が高まっている局面だ。
デジタル・海洋分野も協議の対象
3月28日、日本政府は2026〜2030年度の科学技術基本計画に「軍民デュアルユース技術のR&D推進」を初めて明記し閣議決定した(The Japan Times)。官民の科学技術投資目標を120兆円から180兆円に引き上げる。フィリピンとの相互アクセス協定に続き、インドネシアとの防衛・安全保障面の協力が深まれば、日本の技術企業にとって新たなビジネス領域が開く可能性がある。
今後の注目点
首脳会談後に発表される共同声明の内容が最初の確認点だ。特に「重要鉱物の具体的なプロジェクト名」「ニッケル精製への日本企業の関与」「LNG/エネルギー協力の具体的なスキーム」が盛り込まれるかどうかが注目される。
また4月6日はトランプ大統領のイラン攻撃計画の停止期限だ。ここで停戦交渉に進展があれば、エネルギー危機の緊急性が緩和される。逆に停戦が遠のけば、日本・インドネシア双方にとってエネルギー安全保障の重要性がさらに高まり、二国間協力がより急ぎ足で進む可能性がある。
日本企業・ビジネスパーソンが意識すべき3つのポイント
1. ニッケル・レアアースのサプライチェーン構築に参加できる可能性を探る
日本政府がインドネシアとの重要鉱物MoCを締結したことで、EV・蓄電池関連企業にとって新たな調達ルートが開きつつある。ただし参入するには現地でのパートナー探しと規制理解が不可欠だ。JETROや日本貿易保険(NEXI)の支援スキームを活用する価値がある。
2. エネルギー危機は「コスト増」だけでなく「エネルギーインフラ投資」の機会でもある
東レのサーチャージ導入が示すように、短期的にはコスト増の局面だ。しかしLNG・再エネ・原子力の分野でインドネシアが日本に協力を求めている以上、エネルギーインフラ関連企業には長期的な事業機会が生まれる。
3. ルピア17,000突破は為替リスク管理の見直しサイン
インドネシアに売上・拠点を持つ企業は、ルピア安が進む中で為替ヘッジの見直しが必要だ。ルピアは1998年の通貨危機(1ドル=16,000〜17,000ルピア水準)に近づきつつある。中期的なリスクシナリオとして「ルピアのさらなる下落」を織り込んでおくべき局面だ。
ソース:
- Antara News — Prabowo arrives in Japan for state visit(2026年3月29日)
- Tempo — Prabowo state visit: Japan-Indonesia energy cooperation(2026年3月29日)
- Jakarta Post — Prabowo to visit Japan amid energy crisis(2026年3月27日)
- Nikkei Asia — Toray imposes surcharge as naphtha prices surge 70%(2026年3月27日)
- The Japan Times — Japan’s science plan includes dual-use R&D for first time(2026年3月28日)

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