タイBLドラマとは——『2gether』が火をつけ、日本を魅了する228億円の「Y系」産業

タイのテレビドラマの一大ジャンル「BLドラマ」(Y系)が、いま日本で熱狂的なファンを集めている。男性同士の恋愛を描くこのジャンルは、2020年の『2gether』をきっかけに世界へ広がり、タイではいまや市場規模49億バーツ(約228億円)の輸出産業に育った。タイはアジアのBLドラマ制作の半分以上を占める最大の生産国であり、政府もこれを「ソフトパワー」として後押しする。なぜタイのBLドラマがここまで成長し、日本がこれほど熱狂するのかを、産業の視点から整理する。

49億バーツ
タイのY系(BL/GL)コンテンツ市場規模(2025年・約228億円)
目次

タイBLドラマ(Y系)とは何か

タイでBLドラマは「Series Y(シリーズ・ワイ)」、略して「Y系」と呼ばれる。BLはBoys Love(ボーイズラブ)の略で、男性同士の恋愛を描く物語を指す。興味深いことに、この「Y」は日本のBL用語「やおい」に由来するとされる。日本のサブカルチャーが生んだ言葉が、海を渡ってタイで一大ジャンルの名前になった。

日本でタイBLブームの火付け役となったのが、2020年の『2gether(トゥギャザー)』だ。大学生2人の偽装恋愛が本物の恋に変わる物語で、コロナ禍の巣ごもり需要と重なって世界的にヒットした。ここからタイBLは、国内向けの作品から、世界に売れる輸出商品へと姿を変えていく。

📌 キーポイント:Y系(Series Y)とは
タイで制作されるBL(男性同士の恋愛)・GL(女性同士の恋愛)ドラマの総称。「Y」は日本のBL用語「やおい」に由来するとされる。2020年の『2gether』以降、世界市場へ広がり、タイはアジア最大の制作国になった。

GMMTVが築いた輸出産業

このジャンルを牽引するのが、タイの制作会社GMMTV(ジーエムエムティービー)だ。2024年の売上は24.63億バーツ(約115億円)、純利益は1.26億バーツ(約5.9億円)。東南アジアやラテンアメリカへの配信提携が伸び、デジタル収益は前年比で25%増えた。

GMMTVには「四天王」と呼ばれる人気俳優ペアがいて、彼らがドラマと連動した広告・イベント・グッズで収益を生む。一組の俳優ペアが、ドラマ本編だけでなく、その後のファンビジネス全体を動かす構造だ。ドラマは入口であり、本当の収益はファンとの長い関係から生まれる。

55%
アジアのBL制作に
占めるタイの割合
17%
Y系産業の
年平均成長率
3.9%
エンタメ制作総額に
占める割合(2025)

国家戦略としての「ソフトパワー」

タイ政府は、このY系を国のソフトパワー——文化の力で国の魅力を高め、経済的な利益につなげる戦略——と位置づけている。韓国のK-dramaが観光や化粧品の輸出を押し上げたように、タイはBLドラマで同じ道を狙う。2025年9月には、タイ財団がGMMTVに「公共外交賞(Public Diplomacy Award)」を授与し、国を挙げた後押しを示した。

効果は映像の外にも及ぶ。海外のファンが俳優のファンミーティングのためにタイを訪れ、ホテル・飲食・航空・交通にお金を落とす。コンテンツがそのまま観光客を運ぶ仕組みができあがっている。

日本がこれほど熱狂する理由

日本はタイBLの最大の海外市場の一つだ。2020年の『2gether』ブームの際には、旅行会社のエイチ・アイ・エス(H.I.S.)がドラマの舞台をめぐるオンラインツアーを企画し、250人を超える参加者を集めた。その大半が女性だった。配信サービスにはタイBLの専門枠が組まれ、俳優の来日ファンミーティングは即完売が続く。

背景には、日本にもともと「やおい」「BL」という長い文化的な土壌があったことがある。その素地の上に、タイの作品が高い映像クオリティと俳優の魅力で乗ってきた。日本が生んだジャンルの概念が、タイで産業として磨かれ、日本へ逆輸入されている構図ともいえる。

タイBLを代表する2作品については、それぞれ詳しく解説している。ブームの起点となった「2getherとは」と、ジャンルを広げた「KinnPorscheとは」もあわせて読んでほしい。

日本企業・ビジネスパーソンが意識すべき3つのポイント

1. コンテンツ輸出のモデルケース。 タイは国家戦略として、BLドラマを輸出産業へと育てた。低予算から始まったジャンルが国の看板になった過程は、日本のコンテンツ産業の海外展開にとっても手本になる。

2. ファンツーリズムという接点。 ファンが俳優を追って国境を越える。訪日するタイ人ファンと、タイを訪れる日本人ファンの両面で、観光・小売・宿泊のビジネス機会が生まれている。

3. タイのエンタメ市場の成長。 Y系は年17%で伸びている。タイのエンタメ・配信・広告に関わる日本企業にとって、提携や投資の余地が広がっている。

出典:Nation Thailand、Money & Banking、Bangkok Post、GMMTV関連報道ほかをもとに整理。円換算は1ドル≈32.2バーツ・150円で計算(49億バーツ≈228億円、24.63億バーツ≈115億円)。

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