英国系送金フィンテックのWiseが、2026年5月19日からタイ中央銀行(BOT)の正規免許下でのサービス運用を開始した。これによりWiseのタイ国内利用者は、Wiseアプリ1本で海外送金からタイ国内のPromptPay QR決済までを完結できるようになる。一方でWiseカードによるタイATM引き出しは終了する。日系企業のタイ現地法人や駐在員の財務・経理担当にとっては、送金経路と国内決済の組み合わせを見直す材料が増えた。
何が変わるか
5月18日までは、Wiseはタイから見れば海外送金専業の事業者という位置付けだった。海外送金(日本からタイ等)はWiseで安く送れるが、タイ国内のQR決済はWiseアプリでは使えない。受け取ったバーツを使うには、別のタイ国内アプリ(タイ銀行のアプリ、GrabPay等)にお金を移す必要があった。
5月19日からはBOTの正規免許下で運用されるため、WiseアプリでPromptPayのQR決済が直接できる。タイ国内銀行口座へのバーツ建て送金もWiseアプリから直接実行できる。タイ国内のWise利用者の口座データ・本人確認情報は、現地法人に移管される。
一方で、WiseカードによるタイのATM引き出しは終了する。現金を引き出して使うスタイルから、PromptPayのQR決済を使うスタイルへの移行が前提となる。
タイ中央銀行(BOT)が2017年に導入した、電話番号や国民ID番号を口座代わりに使える即時送金・QRコード決済の国家インフラ。現在、タイ国内のほぼ全ての銀行と決済アプリが対応している。屋台から大型小売まで、QRコード1枚で支払いが完結する仕組み。海外送金事業者がPromptPayに直接接続するには、タイ中央銀行の免許取得が前提となる。
日系企業の業務にどう効くか
Wiseの国内決済対応で、駐在員や現地法人の業務に効きそうなのは次の3点だ。
1つ目は送金経路の選択肢が増えること。日本本社からタイ現地法人への送金、駐在員の生活費送金で、Wiseが「海外送金〜国内決済」の一気通貫経路として現実的な候補になる。従来は海外送金部分はWise・国内決済部分は別アプリという二段構えだったのが、一本化できる。
2つ目は為替コストの再評価。Wiseの強みはミッドマーケットレート(銀行間レート)に近い為替を提示することで、銀行送金より為替コストが低い。バーツ建て国内決済まで含めて使う場合、年間の為替コスト圧縮を試算する価値が出てきた。
3つ目はWiseカードのATM引き出し終了への対応。Wiseカードを使ってきた駐在員は、PromptPay QR決済への切り替えと、必要時の現金確保手段(タイ銀行口座のカード等)を改めて整理する必要がある。
PromptPayが外資送金事業者を受け入れ始めた背景
Wiseのタイ国内ライセンス取得は、タイの決済インフラPromptPayが、海外送金事業者を直接接続する形で受け入れた最近の例の1つだ。2026年5月にはPromptPayとインドネシアのQRIS、中国のWeChat Pay/Alipayの相互接続も進んでいる(関連記事:PromptPay×中国越境決済)。タイ国内に閉じた決済システムから、ASEAN域内・グローバル送金とつながる決済システムへとPromptPayの役割が広がっている。
日系送金事業者・銀行にとっても、Wiseがタイで先行ライセンスを取った事実は判断材料になる。同じ仕組みを日系で構築する場合のコスト・期間・規制対応の参考事例として、今後数カ月のWiseの運用実績が注目される。
同じ週のタイ・デジタル業界の関連動向
Wise×PromptPayの施行と同じ週の5月17〜18日に、タイのデジタル業界では他にも報道があった。簡潔に整理する。
- TikTok Shopが市場シェア33%でLazadaを抜き、タイEC2位に浮上(タイEC市場規模1兆1,500億バーツ、1位はShopee)。動画コマースが手数料設計を含めて主導権を取りつつある
- BOI(タイ投資委員会)がプリント基板(PCB)拡張220億バーツを承認(5月18日)。大手3社の拡張、5,000人雇用、AIサーバー・データセンター向け部材の国内調達を強化する
- NDID(タイ国家デジタルID)がAPAC Digital Identity Verification of the Year 2026を受賞(5月18日)。6,000万デジタルID、180組織が参加する分散型本人確認基盤がAPACで評価された
- 外資が関わるデータセンターの電力使用ルールについて、政府が監督強化を検討中とBangkok Postが5月18日に報じた
Wise×PromptPay統合とこれらの動向は別々のニュースだが、いずれもタイのデジタル経済に外資・グローバル基準のプレーヤーが関わる場面が増えている事実を示している。
今後の注目点
短期では、Wise×PromptPay統合の実際の利用状況、特に法人ユーザーがどこまで現地決済をWiseに切り替えるかが見える指標になる。データセンター電力規制の具体案発表時期、バーチャルバンク3社(Ascend Money、Krung Thai Bank+AIS+OR、SCB X+KakaoBank)の2026年中の運用開始タイミングも、決済まわりの競争を変える可能性がある。
IT・デジタル担当者が今月確認すべき3つのポイント
- Wise×PromptPay統合の業務適用を試算する。タイ現地法人・駐在員の送金経路(日本→タイ、タイ国内決済)をWiseアプリ1本で完結する形に再設計した場合のコスト・着金タイミング・社内承認フローを試算する。為替コストの圧縮余地と、社内ツール統合の影響を整理する。
- WiseカードのATM引き出し終了への対応を駐在員に伝える。現金引き出しを前提に運用していた場合、PromptPay QR決済への移行手順と、緊急時の現金確保手段(タイ銀行口座のカード等)を社内ガイドラインで明文化する。
- 同じ週の他の動向(TikTok Shop・BOI・NDID)を業務に合わせて選別する。EC運営担当はTikTok Shopの手数料変更を、ハードウェア調達担当はBOI承認PCBの供給状況を、本人確認システム担当はNDIDの活用余地を、それぞれ個別に検討する。
参照ソース:Hua Hin Today: Wise×PromptPay 5/19施行、TKTK: TikTok Shop タイ市場シェア33%、Techsauce: BOI PCB拡張220億バーツ承認(2026年5月18日)、Biometric Update: NDID APAC賞受賞(2026年5月18日)、Bangkok Post: 外資DC電力規制検討(2026年5月18日)

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