タイ自動車生産が3月+2.69%で回復——HEV+12.7%・EV+47.6% vs ICE-22%、日系部品サプライヤーの転換戦略

タイ工業連盟(FTI)が発表した2026年3月の自動車生産統計に、「単純な回復」とは言えない構造変化が現れている。Nation Thailand(4月27日)Bangkok Post(4月)によると、3月の自動車総生産は133,413台(前年同月比+2.69%、前月比+13.11%)と回復した。一見明るい数字だが、内訳を見ると話は変わる。

EV乗用車が+47.62%(12,074台)、HEV(ハイブリッド)が+12.69%と急伸する一方、ICE(ガソリン)乗用車は-22.08%と急減している。輸出生産は88,651台(+6.53%)で、乗用車輸出は+19.91%と二桁成長。ICEの減少分を電動車と輸出向けが埋めて全体プラスになった、というのが実態である。

タイで自動車産業のサプライチェーンに関わる日系部品メーカーにとって、3月の数字は「ICE中心の事業構造のままでは緩やかに減産が続く」というシグナルである。一方、電動化対応とBOI EV3.5枠組みの活用が進めば、需要は確実に拡大する局面に入っている。

目次

背景——BYDのRayong工場と「右ハンドル輸出ハブ」の確立

電動化を牽引しているのは中国系メーカーである。BYDは2024年7月にWHA Rayong 36工業団地で東南アジア初の乗用車工場を稼働させた。年産能力15万台で、stamping・painting・welding・final assemblyを一貫する。2025年8月には初の輸出としてDolphin 959台をドイツ・ベルギー・オランダなど欧州向けに出荷している(China Daily)。

政府の政策支援も明確である。BOIによれば、EV輸出は2025年の12,500台から2026年には52,000台へ4倍に増える見通し。これを後押しするのが「1台輸出を1.5台の現地生産義務にカウントする」という新ルールで、メーカーの輸出インセンティブを高めている。タイは右ハンドル車の輸出ハブとして、ASEAN域内・中東・欧州・豪州への供給拠点に再定義されつつある。

📌 キーポイント:BOI EV3.5とは
タイ投資委員会(BOI)が打ち出した第2弾のEV振興パッケージ。EV車・電池・主要部品・充電ステーションまでEV産業エコシステム全体への投資を促進する。50億バーツ超の電池投資には8年法人税免除(利益上限なし)、それ以下は3年免除。BOIとEEC(東部経済回廊)の優遇を組み合わせれば、最大15年の法人税免除が可能になる。EV3/EV3.5枠組み下の総コミット投資は137億バーツ超に達している。

タイ自動車生産3月の二極化

影響——日系部品サプライヤーが直面する3つの選択

HEV+12.7%・EV+47.6% vs ICE-22.1%という数字は、タイの日系自動車サプライチェーンに3つの選択肢を突きつけている。

第一の選択は、HEV対応の前倒しである。トヨタ・ホンダなど日系OEMが強みを持つHEV領域は、3月に+12.69%と堅調に伸びている。ICEと共通する駆動系部品から、モーター・インバーター・電池冷却系へ製品ポートフォリオを移すことで、既存の日系OEM向け売上を維持できる。完全EV対応より投資負担が軽く、日系のサプライチェーン構造に親和性が高い。

第二の選択は、中国系OEMへの供給チャネル開拓である。BYDのRayong工場稼働により、現地調達のTier1・Tier2サプライヤー候補が新たに数十社単位で必要になっている。日系部品メーカーが「日系OEM専属」を続ければ、ICE減少分を埋めきれない。中国系OEMが要求する仕様変更スピード(日系より明らかに速い)と、コスト水準(日系より明らかに低い)に対応できる体制を整えるかどうかが分水嶺である。

第三の選択は、輸出向け生産の拡大である。3月の乗用車輸出は+19.91%と二桁成長、BOIは2026年のEV輸出を52,000台(+316%)と見込んでいる。タイは右ハンドル車の輸出ハブとして再定義されつつあり、輸出向け仕様の部品(特に欧州・豪州規格)に対応できるサプライヤーには需要が集まる。

労働市場と政策の不確実性

逆風要因も無視できない。FTI自動車部会のスポークスマンは、新政府に対し「政策と2027年度予算をすぐに国会に提出し、投資プロジェクトを加速させるべき」と発言している。タイの政治不安定により、EV3.5の次の支援策(EV4.0が議論されている)の決定が遅れれば、メーカー側の投資判断も止まる。

加えて、米国のSection 301調査(4月28日からUS ITCで公聴会開始)にタイが対象国として含まれている点も、輸出ハブ戦略にとっての中期的なリスクである。タイの対米関税は19%(ASEAN首脳会議で確定)だが、調査結果次第で追加関税が発動される可能性がある。タイ中央銀行は政策金利1.00%(2022年9月以来の低水準)を維持しており、企業の借入環境は良好だが、それは「景気が弱いから動けない」状況の裏返しでもある。

今後の注目点

短期的には、4月生産統計(5月末発表)でEV+47%の伸びが続くかが焦点である。BYDのRayong工場フル稼働、Hyundai新規BOI承認案件(10億バーツ、BEV/電池現地組立)、Greatwall・MGなど他の中国系の動向が、Q2の数字に反映される。日系部品メーカーは月次の電動車比率の動きを前提に、四半期ごとの生産計画を見直すべきタイミングである。

中期的には、2026年通年でFTIの予測する150万台(+3%)目標が達成できるか、そしてEV比率がどこまで上がるかが鍵である。Q1で総生産が前年比微増にとどまっている中、年間目標達成にはQ2-Q4で平均+5%の成長が必要となる。中東情勢の影響でICE需要がさらに減速すれば、目標達成はEV/HEVの伸びに依存する構造になる。

日本企業・ビジネスパーソンが意識すべき3つのポイント

1. 既存日系OEM向けはHEV対応に投資シフトする
EV専業へのジャンプが投資負担で難しい場合、HEV対応への投資が現実的な選択肢である。トヨタ・ホンダの強みを活かしながらモーター・電池冷却系・電動化補機への製品拡張を進めれば、ICE減少分の半分以上はカバーできる。BOI EV3.5の枠組みではHEV関連部品も対象に含まれるため、設備投資は税制優遇を取りに行くべきである。

2. 中国系OEM対応の社内体制を5月中に決断する
BYDのRayong工場とHyundaiの新規BOI承認で、中国・韓国系OEM向けのTier1・Tier2引き合いはQ2に本格化する見込みである。日系OEM専属のままで行くか、中国系OEMにも供給するかの判断は、4-5月のうちに社内で固めるのが望ましい。仕様変更スピードとコスト構造が日系と異なるため、並行運用の体制設計には3〜6ヶ月の準備期間が必要である。

3. EEC+BOIの合算優遇で15年免税を取りに行く
EEC(東部経済回廊)にあるWHA・Amata・Hemarajなどの工業団地に新規投資する場合、BOIのEV3.5優遇とEECの優遇を組み合わせれば、最大15年の法人税免除が可能である。設備投資の意思決定は、新政府の予算成立と政策方針が固まる夏以降に集中する見込みなので、5-6月にBOIへの事前相談を入れておくことが有利な投資条件を取る前提条件になる。

主要ソース:
Nation Thailand(4月27日)
Bangkok Post(4月)
ASEAN Briefing BOI EV3.5
China Daily(BYD輸出)
Bloomberg(4月9日 BoT)

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