【フィリピン企業紹介】Jollibee|世界10,304店・海外売上比率43%——マクドナルドに勝った国民食が2027年米国上場へ

マニラの繁華街で「フィリピンの国民食は何か?」と聞けば、多くの人が「Jollibee」と答える。1981年に世界最大手のマクドナルドがフィリピン市場に進出したとき、地元の業界関係者の多くは「ローカルチェーンに勝ち目はない」と見ていた。だが45年後の今、フィリピン国内のファストフード店舗数で首位に立つのは、マクドナルドではない。Tony Tan Caktiongという華僑系フィリピン人が家族と始めたアイスクリーム店から育ったJollibeeだ。

そのJollibeeが、2026年1月に米国上場計画を発表した。フィリピン証券取引所への上場(1993年)から33年を経て、今度は国際事業を分離し米国市場で評価を取りに行く。Jollibee Groupは現在、世界33カ国に10,304店を展開する。1975年のアイスクリーム1号店から、半世紀でここまで来た物語を整理する。

10,304
Jollibee Groupが2025年9月時点で世界33カ国に展開する店舗数。うち海外は6,859店で全体の67%
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1975年のアイスクリーム店から、3年でファストフードに転換した

Tony Tan Caktiong(タニー・タン・カクティオン)は1953年にフィリピンに生まれた華僑系の家族の出身だ。福建省から移住した両親のもとで育ち、マニラ大学で化学工学を学んだ。1975年、22歳の若さで一家を率いてケソン市Cubao地区にアイスクリームパーラーを開いた。Magnoliaブランドのライセンス店で、当時のフィリピンでは数少ない冷房付きの店として、若いカップルや家族連れの「特別な日のおでかけ先」として親しまれた。

転機は開業から数年後に訪れた。Tanyの妹が「お客さんがアイスクリームより、店内で出している軽食を求めている」と気づいた。当時の店はサイドメニューとしてハンバーガーとサンドイッチを出していたが、フィリピン人の好みに合わせて醤油味のソースをかけたハンバーガーが特に人気だった。Tanyは外部のマネジメントコンサルタントManuel C. Lumbaに相談し、「これは方向転換が必要だ」という助言を受けた。

1978年1月、Jollibee Foods Corporationを正式に設立。アイスクリームパーラーをファストフード店に作り変えた。「Jollibee」というブランド名は、Tanyが好きだった蜂のキャラクターから取った。「働き者で、明るく、家族を大切にする」というフィリピン人の価値観を体現させる狙いだった。同年末までにマニラ首都圏内で7店舗を展開した。

1981年、世界最大手のマクドナルドがフィリピン市場に進出した。業界関係者の多くは「Jollibeeは数年でつぶれる」と予想した。だがTanyは独特の戦略を取った。マクドナルドが世界共通のレシピを守る中で、Jollibeeはフィリピン人の味覚に徹底的に合わせた。「Chickenjoy」と呼ばれる甘辛い揚げ衣のフライドチキンを看板商品にし、ハンバーガー「Yumburger」には醤油味のソースを使い、スパゲッティには甘いトマトソースを合わせた。マクドナルドのテリヤキバーガーやサムライバーガーのような「現地適応メニュー」を、Jollibeeは創業時から本流に据えた。

結果として、1980年代後半にはJollibeeがフィリピン国内のファストフード店舗数でマクドナルドを上回った。マクドナルドが世界中で勝利を重ねる中、フィリピンは「マクドナルドが現地企業に勝てなかった数少ない国」になった。Tanyは1993年にフィリピン証券取引所に上場(PSE:JFC)し、調達した資金で多ブランド戦略を始める。2000年に中華系ファストフードのChowkingを買収、その後ベーカリーRed Ribbon、フィリピン式バーベキューチキンのMang Inasal、ピザのGreenwichなどを次々と取り込んでいった。

Jollibee Foods Corporationの歩み

14のブランドが連なる「外食コングロマリット」の中身

2026年現在のJollibee Groupは、外食業の枠組みを超えた巨大なブランドポートフォリオを抱える。完全所有のブランドだけでJollibee、Chowking、Greenwich、Red Ribbon、Mang Inasal、Yonghe King(中国)、Hong Zhuang Yuan(中国)、Smashburger(米国)、Tim Ho Wan(香港)の9つ。一部所有のCoffee Bean & Tea Leaf(80%)、Compose Coffee(韓国・70%)、Milksha(タピオカ・51%)、Highlands Coffee(ベトナム・SuperFoods Group経由で60%)を加えると14ブランド。さらにBurger King、Panda Express、Yoshinoya、Common Man Coffee Roasters、Tiong Bahru Bakeryのフランチャイズ運営も行っている。

Jollibee Groupのシステムワイド売上構成(2025年・地域別)

収益構造を見ると、2025年通期のシステムワイド売上は前年比約15%増。地域別ではフィリピン国内が約57%、海外33カ国が約43%という構成だ。注目すべきは海外比率の上昇カーブで、2017年には海外比率がわずか21%だったが、買収を重ねた結果、わずか8年で倍以上に増えた。同社が「米国上場で資本を取りに行く」判断をした背景には、この海外加速のさらなる原資が必要だという事業判断がある。

主要KPI(重要業績指標)を見ると、2025年第1四半期の連結売上は702億ペソ(約12億ドル)で前年同期比14.6%増。EBITDA(金利・税金・減価償却前利益)は2024年通期で319億ペソ(前年比12.4%増)。直近15四半期の国際事業CAGR(年平均成長率)は26.7%で、これは外食業界では極めて高い水準だ。

ブランド別では、買収後のCompose CoffeeとTim Ho Wanが急成長を牽引している。Compose Coffeeは韓国発の低価格コーヒーチェーンで、2025年に100%子会社化された後、東南アジアへの展開を進めている。Tim Ho Wanは香港の点心専門店で、ミシュランの星を持つ「世界一安価なミシュランレストラン」として知られる。Jollibeeは2025年1月にこの全株式を取得し、グローバル展開を加速させている。Q1 2025の国際事業システムワイド売上の29.5%増は、この2ブランドが大きく押し上げた。

面白いのは、Jollibee Groupが「アセットライト戦略」を採用している点だ。10,304店のうち、フィリピン国内では直営店比率が比較的高いが、海外店舗の多くはフランチャイズ運営だ。Jollibee本体は直接の店舗運営リスクを限定し、ブランド権・サプライチェーン・経営ノウハウのライセンス収入で利益率を維持する構造を取っている。Tim Ho Wanのような点心専門店は、現地パートナーが運営し、Jollibeeはロイヤリティ収入を受け取る形が中心だ。

フィリピン国内で守る首位、海外では「アジアの外食買収者」

フィリピン国内の競争環境はJollibeeにとって追い風だ。同社のJollibeeブランド単体で約1,250店、傘下のChowkingが約470店、合計1,720店超を展開する。これに対し、マクドナルド・フィリピン(運営はGolden Arches Development Corp.、Alfredo Yao家が所有)は約720店、KFCフィリピン(運営はYum Brands傘下のRamcar)は約350店程度にとどまる。

フィリピンのファストフード市場の主要4社(店舗数)

ただし、店舗数の優位がそのまま収益優位を意味するわけではない。マクドナルド・フィリピンは1店あたりの売上がJollibeeより高く、利益率も高水準だ。Jollibeeは店舗数の多さで日常需要を捕まえる一方、マクドナルドはモール・ドライブスルー店舗で都市部の中産階級需要を取りに来ている。2社の競合は「同じ商品で戦っていない」状態に近い。

国際市場では、Jollibeeは「アジアの外食買収者」というポジションを取っている。米国のSmashburgerとCoffee Bean & Tea Leafを取得し、北米市場への足がかりにした。ベトナムのHighlands Coffeeを通じてベトナム最大のコーヒーチェーン市場を押さえた。韓国のCompose Coffeeで韓国市場に入り、香港のTim Ho Wanで点心領域に展開した。さらに2026年2月には韓国のShabu All Day Buffetを8,500万ドル(約120億ウォン)で買収。韓国市場でのプレゼンスを強化している。

この「買収による地域展開」戦略は、ファストフード業界では珍しい。世界の主要外食チェーン(マクドナルド、Yum Brands、Restaurant Brands International、Domino’s等)は自前ブランドの直営・フランチャイズ展開が中心で、他社買収による地域進出はあまり見られない。Jollibee Groupはこの戦略で、北米・東アジア・東南アジアの3地域に同時並行で食い込むことに成功した。

3つの強みと、3つの課題

Jollibee Groupの強みは、第1にフィリピン人の味覚への深い理解だ。Chickenjoyの揚げ衣の配合、Yumburgerの醤油ソース、スパゲッティの甘さ——これらは数十年にわたる消費者調査と微調整の結果で、競合他社が短期間で再現できるものではない。マクドナルドが進出45年経ってもフィリピン市場で首位を奪えない理由はここにある。

第2の強みは、買収統合の経験値だ。Smashburger(2018年)、Coffee Bean & Tea Leaf(2019年)、Tim Ho Wan(2025年100%化)、Compose Coffee(2025年100%化)と、過去10年で大型買収を立て続けに成功させてきた。買収先のブランドを潰さず、サプライチェーンと経営インフラだけ統合する手法が確立されている。

第3の強みは、創業家のガバナンスだ。Tony Tan Caktiongは現在も会長として影響力を持ち、家族メンバーが取締役会に複数席を占める。短期収益のために長期投資を犠牲にする経営判断が出にくく、買収戦略のような10年単位の投資ができている。

一方、課題も明確だ。第1に、海外買収の統合リスクが高まっている。Smashburgerは買収後数年間、利益率の改善に苦しんだ。Coffee Bean & Tea Leafも当初の業績見通しを下方修正する局面があった。Compose CoffeeとTim Ho Wanの両ブランドが今後同じ道をたどる可能性は否定できない。

第2の課題は、フィリピン国内市場の成熟だ。同国のファストフード市場は人口増加に支えられて拡大してきたが、都市部では飽和に近づいている。Jollibee単独での新規出店余地は限定的になりつつあり、これが「海外加速」「米国上場」という戦略選択につながった。

第3の課題は、原材料コストの上昇圧力だ。Chickenjoyの主原料である鶏肉は飼料価格の影響を受けやすく、世界的なインフレと為替変動で利益率が圧迫される局面が続いている。フィリピン国内では値上げの余地が小さく、原料調達の効率化と垂直統合の深化が求められている。

2027年末の米国上場へ——「アジア最大の外食企業」を投資家に示す

2026年1月7日、Jollibee Groupは国際事業を分離し、米国の証券取引所に上場する計画を発表した。発表当日、フィリピン証券取引所のJollibee株は急騰した。同月14日、グローバルCFOのRichard Shinは米Fortune誌の取材に対し、戦略の論理を説明した。

“I think there’s a fact that we can all agree on: the U.S. capital markets have deep investor-based experience in valuing global consumer and restaurant growth companies.(米国の資本市場は、グローバルな消費・外食成長企業の評価において投資家の経験が深い、という事実は誰もが認めるだろう)”
— Richard Shin(Jollibee Foods Corporation グローバルCFO、2026年1月14日 Fortune誌取材)

分離上場の狙いは複数ある。第1に、評価の透明性向上だ。現在のJollibee Foods Corporation(PSE:JFC)の株価は、フィリピン国内事業と国際事業を「ひとまとめ」で評価されており、特に国際事業の成長性(CAGR 26.7%)が十分に反映されていないという経営側の見方がある。米国市場では、外食チェーンのグローバル展開を評価する経験豊富な投資家層が厚く、より高いバリュエーション(企業価値)が期待される。

第2の狙いは、資本調達力の強化だ。今後の買収戦略を加速するには、米国市場での増資・社債発行が有利となる。北米市場でのSmashburger、Coffee Bean & Tea Leafの拡大、東南アジアでのCompose Coffee、Tim Ho Wanの店舗網拡大には、フィリピンの資本市場が提供できる規模を超えた資金が必要との判断だ。

第3の狙いは、Tony Tan Caktiong家のガバナンス継承だ。同家は現在もフィリピン株式の過半を保有するが、国際事業を分離することで「家族経営のアイコン的事業(フィリピン国内)」と「機関投資家向けのグローバル事業」を明確に分けられる。これは長期的な事業承継を見据えた構造とも言える。

上場目標は2027年末。それまでにJollibeeは、Highlands CoffeeのベトナムでのIPOを準備しており、海外子会社の整理と財務開示の準備を進めている。米国市場の投資家にとって、Jollibeeは「フィリピン発」のブランドというより、「アジア発の外食買収者」として評価される可能性が高い。

日本企業・ビジネスパーソン向け なるほどポイント

Jollibeeの物語は、新興国の外食企業がどのようにグローバルプレイヤーへ成長していくかを示している。日本の読者にとっての示唆を3つ挙げる。

  1. マクドナルドに勝った企業の戦略は、現地化の徹底にあった。Jollibeeは創業時から「フィリピン人の味覚に合う」ことを最優先にし、世界共通レシピへの抵抗ではなく、最初から別のゲームを始めた。日本の外食チェーンが東南アジアに進出する際、現地味覚への適応をどこまでやるかは大きな経営判断になる。Jollibeeの45年は、その回答の一つだ。
  2. 新興国の外食企業による先進国買収は、もはや珍しいことではない。Jollibeeは米国Smashburger、Coffee Bean & Tea Leaf、香港Tim Ho Wan、韓国Compose Coffee、Shabu All Dayを次々と取得した。日本国内でも、東南アジア・中東・中国系の資本が日本の飲食ブランドを買収する事例が増えている。「自社が買収する側」だけでなく「買収される側」になり得る前提で経営を組む時代に入っている。
  3. 米国上場は新興国成長企業の選択肢として再評価されている。フィリピン証券取引所に33年間上場してきたJollibeeが、国際事業をあえて米国に上場し直すという判断は、新興国の資本市場の評価が成長性に追いつかないという現実を示している。日本企業の海外上場戦略を考えるうえでも、この事例は参考になる。

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