プラスチック価格が急騰——ナフサ不足がインドネシアの産業を直撃
インドネシアでプラスチック製品の価格が急騰している。ジャカルタ南部パサール・ミングの市場では、プラスチック包装が1パック当たり6,000ルピア値上がりし、17,000ルピアから23,000ルピアになった。食品・飲料メーカーの包装コストは50〜60%上昇。原因は、プラスチックの原料であるナフサの供給が止まったことにある。
Kompasによると、インドネシアのプラスチック業界団体Inaplas(インドネシアオレフィン・芳香族・プラスチック産業協会)のファジャル・ブディオノ事務局長は「業界は現在、サバイバルモードに入っている」と述べた。kumparanも、プラスチック原料価格が「短期間でほぼ2倍に跳ね上がった」と報じている。
なぜナフサが届かないのか——ホルムズ海峡封鎖の連鎖
ナフサとは、原油を精製して得られる揮発性の液体で、プラスチックの原料となるエチレンやプロピレンを作るための基礎素材である。ペットボトル、食品包装、買い物袋——日常で使うプラスチック製品のほぼ全てが、ナフサから始まる。
問題は、インドネシアがこのナフサの約70%を中東から輸入していることにある。2026年2月末に始まったイラン情勢の激化により、ペルシャ湾とインド洋を結ぶホルムズ海峡が事実上封鎖された。世界のナフサ供給の約70%が中東由来であり、この封鎖はインドネシアだけでなく、アジア全体の石油化学産業に打撃を与えている。
さらに、サウジアラビアや湾岸諸国の製油所も紛争の影響を受け、ナフサの生産自体が減少している。つまり、「届ける手段(海峡)」と「作る場所(製油所)」の両方が同時に損なわれた。
Jakarta Postは、インドネシア政府と業界がアフリカ、インド、米国からの代替調達を急いでいると報じた。しかし、代替ルートには「価格が割高で、配送に最大50日かかる」という課題がある。中東ルートの単純な置き換えにはならない。
原油を精製して得られる揮発性の液体。石油化学産業の最も基本的な原料で、エチレンやプロピレンに分解(ナフサクラッキング)され、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などのプラスチック樹脂になる。ペットボトル、食品トレー、買い物袋、自動車部品など、身の回りのプラスチック製品のほとんどがナフサ由来である。
インドネシア最大手チャンドラ・アスリも「不可抗力」宣言
危機の深刻さを象徴するのが、インドネシア唯一のナフサクラッカー(ナフサを分解してエチレンなどを製造する大型設備)を持つチャンドラ・アスリ・パシフィックの動きである。
Jakarta Postによると、チャンドラ・アスリは3月初旬に全契約について不可抗力(フォースマジュール)を宣言した。ホルムズ海峡の封鎖により原料の輸送が「重大な支障を受けている」としている。同社はその後、操業は継続しているものの「供給状況に応じて稼働率を選択的に調整している」と説明している。
チャンドラ・アスリはインドネシア国内で唯一のナフサクラッカー、スチレンモノマー、MTBE(ガソリン添加剤)の製造者である。この1社の供給が滞れば、国内のプラスチック・化学品のサプライチェーン全体に波及する構造になっている。
日本の化学メーカーにも波及——三菱ケミカル、三井化学が代替調達へ
この危機はインドネシア国内にとどまらない。日本経済新聞(3月31日)によると、三井化学は米国やアフリカからの代替ナフサ調達にめどをつけ、三菱ケミカルグループも中東以外からの購入を決定した。三菱ケミカルは国内の茨城事業所のエチレン製造装置の稼働率を引き下げ、原料枯渇に備えている。
インドネシアとの関連では、三菱ケミカルはかつてインドネシアで高純度テレフタル酸(PTA)事業を展開しており、住友化学もシンガポール拠点を通じてASEAN域内の石油化学事業を運営している。チャンドラ・アスリの不可抗力宣言と同時期に、住友化学のシンガポール子会社もメタクリル酸メチル(MMA)の供給について不可抗力を宣言しており、サプライチェーンの混乱がアジア全域に広がっていることがわかる。
インドネシアに進出している日系の食品メーカー、日用品メーカーにとっても影響は大きい。包装資材の調達コストが50〜60%上昇している現状では、製品価格への転嫁か、利益率の圧縮かという判断を迫られている。
代替調達の現実——アフリカ・インドルートの課題
インドネシア商務大臣はアフリカ、インド、米国からの代替供給源を模索していると表明している。しかし、Inaplas の指摘によれば、代替ルートには構造的な課題がある。
第一に、価格が割高になる。中東産ナフサは大規模精製設備と短い輸送距離(ホルムズ海峡からシンガポール経由でインドネシアまで約1〜2週間)によるコスト優位があったが、アフリカ西海岸やインドからの調達はこの前提が崩れる。
第二に、配送に最大50日を要する。これは在庫管理の根本的な見直しを意味する。「ジャスト・イン・タイム」で原料を確保していた企業ほど、バッファー在庫の積み増しが必要になる。
第三に、インドネシア国内の精製能力に限界がある。国内でナフサを自給する手段がほぼなく、チャンドラ・アスリが唯一のナフサクラッカーであるという産業構造が、中東依存を固定化してきた。
ナフサを800度以上の高温で熱分解(クラッキング)し、エチレン、プロピレンなどの石油化学基礎製品を製造する大型設備。建設コストが数千億円規模に上るため、一国に数基しかないことが多い。インドネシアではチャンドラ・アスリが唯一の運営者で、この1社の稼働状況が国内プラスチック産業全体の供給力を左右する。
今後の注目点
短期的には、ラマダン明けのレバラン(断食明け大祭)需要がプラスチック消費をさらに押し上げるため、価格上昇圧力は4月中旬まで続く可能性が高い。
中期的には、チャンドラ・アスリが2024年に買収したシンガポールのシェル・ブコム製油所からのナフサ供給が、代替調達の鍵になる。同社はこの買収により年間生産能力を約420万トンから1,800万トン超へ拡大しており、ブコム製油所からインドネシアへの直接供給が実現すれば、中東依存を構造的に引き下げる一歩になる。
また、イラン情勢の推移次第では、ホルムズ海峡の航行再開が一気に状況を変える可能性もある。ただし、製油所の復旧には時間がかかるため、供給の正常化には数か月を要するとの見方が業界では支配的である。
日本企業・ビジネスパーソンが意識すべき3つのポイント
1. 包装コスト急騰への対応を急ぐ
インドネシアで食品・飲料・日用品を製造・販売する日系企業は、包装資材コストが50〜60%上昇している現実に直面している。製品価格への転嫁、代替素材(再生プラスチック、紙包装)の検討、サプライヤーとの価格交渉の3つを並行で進める必要がある。
2. 化学品サプライチェーンの中東依存度を点検する
ナフサに限らず、中東由来の化学品原料に依存するサプライチェーンは、今回と同様の途絶リスクを常に抱えている。三井化学や三菱ケミカルのように複数地域からの調達を確保する動きは、コストが上がっても「供給が止まらない」ことの価値を示している。インドネシア子会社の調達先リストを改めて確認し、単一地域依存がないかチェックすべきである。
3. チャンドラ・アスリの動向を注視する
インドネシア唯一のナフサクラッカー運営者であるチャンドラ・アスリの稼働状況は、国内のプラスチック・化学品の供給量を左右する。同社のブコム製油所買収による供給多角化が実現するかどうかは、インドネシアの石油化学産業全体の構造問題に関わる。同社の四半期決算や稼働率の発表は、日系化学メーカーや包装資材メーカーにとって重要なシグナルになる。
主要ソース:
Kompas(インドネシア語、4月2日)、
kumparan(インドネシア語、4月5日)、
Jakarta Post(英語、4月5日)、
日本経済新聞(3月31日)

コメント