フィリピンで商売するコストが急騰——燃料・食材・電力の「三重苦」と、今使える政府支援

フィリピンで飲食店や小売店を経営するオーナーにとって、2026年4月は厳しい月になっている。ディーゼル価格は累積で1リットルあたり100ペソ(約260円)以上の値上げ、食品インフレは低所得層で3.7%に達し、電力料金は最大16%の上昇が見込まれている。燃料・食材・電力の3つが同時に上がる「三重苦」の状態である。

Rappler(4月6日)によると、4月7日時点でディーゼルは1リットルあたり3.85ペソの追加値上げとなった。これはイラン関連の中東紛争による原油高騰の影響で、年初から続く値上げの累積額は100ペソを超えている。1リットル約260円——日本のガソリン価格と大差ないレベルにまで上がっている。

この燃料高は、単にバイクや車の燃料代が上がるだけではない。食材を市場から店まで運ぶ配送コスト、ジェネレーターの燃料代、そして従業員の通勤コストに直結している。

目次

ジプニー停止——「スタッフが来られない」問題

Philippine Star(4月6日)が報じた深刻な事態がある。フィリピンの庶民の足であるジプニー(小型乗合バス)の運行停止が広がっているのである。燃料費が高騰する一方で運賃は政府が規制しているため、走れば走るほど赤字になるオーナードライバーが運行を拒否している。

ジプニーは日本でいえば路線バスのような存在で、月収1万〜2万ペソ(約2万6,000〜5万2,000円)の労働者にとって唯一の通勤手段であることが多い。これが止まると、飲食店や小売店のスタッフが出勤できなくなる。マニラ首都圏だけでなく地方都市でも停止が広がっており、人手不足に直面している事業者は少なくない。

📌 キーポイント:ジプニーとは
フィリピン全土で約18万台が走る小型乗合バス。運賃13ペソ(約34円)〜と極めて安く、都市部の低中所得層の主要な交通手段。燃料費の高騰で採算が合わなくなったオーナードライバーが運行を停止しており、通勤・通学に影響が広がっている。

食材コストの上昇——米の価格上限と廉価米拠点

燃料だけではない。Daily Tribune(4月7日)によると、フィリピンの食品インフレは低所得層で3.7%に達している。野菜、食用油、砂糖といった飲食店の基本食材が軒並み値上がりしている。燃料高による配送コスト増が、そのまま仕入れ価格に転嫁されている構造である。

これに対して政府は2つの対策を打っている。

第一に、輸入米への価格上限。Philippine Daily Inquirerによると、政府は輸入米に1kgあたり50ペソ(約130円)の上限価格を設定した。フィリピンの米は国産だけでは供給が足りず、ベトナムやタイからの輸入に依存している。その輸入米が投機的に値上がりするのを防ぐ措置である。

第二に、廉価米の販売拠点拡大。農務省(DA)は全国627拠点で「Kadiwa」と呼ばれる廉価米販売プログラムを展開している。市場価格より安い米を政府が直接販売する仕組みで、飲食店オーナーも利用できる。近くの拠点は農務省のウェブサイトまたはバランガイ(町内会)の掲示板で確認できる。

フィリピン中小事業者のコスト三重苦

電力料金の上昇——冷蔵庫と空調を止められない事業者の悩み

Philippine Starが報じた通り、4月の電力料金は最大16%の上昇が見込まれている。原油高騰が発電コストに波及しているためである。フィリピンの電力供給は石炭とLNG(液化天然ガス)に依存しており、国際エネルギー価格の影響を直接受ける。

飲食店にとって冷蔵庫・冷凍庫は止められない設備であり、小売店にとって空調なしでは客足が遠のく。電力料金の16%上昇は、月の電気代が2万ペソ(約5万2,000円)の店舗なら、月3,200ペソ(約8,300円)の追加負担になる計算である。

さらに深刻なのは、ペソの下落が追い打ちをかけていることである。Inquirer(4月7日)によると、ペソは1ドル=60.26ペソと過去最安値を更新した。輸入食材、輸入包装資材、輸入設備の部品——ドル建てで調達するものすべてがペソ換算で値上がりしている。

📌 キーポイント:ペソ安が中小事業者に与える影響
フィリピンペソは2026年4月7日に1ドル=60.26ペソと過去最安値を記録。飲食店が使う輸入食材(小麦粉、チーズ、オリーブオイル等)、小売店が仕入れる輸入商品、設備の交換部品など、ドル建ての調達コストが自動的に上昇する。国産品への切り替えが可能なものは、今のうちにサプライヤーを見直しておくべきである。

中小事業者が今すぐできる3つの対応策

コストが上がるのを止めることはできない。しかし、影響を最小限に抑える方法はある。

対応策1: メニュー・商品構成の見直し

飲食店であれば、輸入食材(小麦粉、チーズ、オリーブオイル等)を多用するメニューの比率を下げ、国産食材で作れるメニューの比重を上げる。例えば、パスタよりもパンシット(フィリピン風焼きそば)、輸入チーズよりもローカルの卵料理。原価率の高いメニューを「期間限定」に切り替え、利益率の高い定番メニューを前面に出すだけでも、月の利益は変わってくる。

対応策2: 仕入れ先の分散と政府プログラムの活用

米はKadiwa拠点(全国627カ所)で市場価格より安く調達できる可能性がある。また、農務省が展開する食品供給安定策の対象品目リストを確認し、該当する食材があれば通常の仕入れ先と比較する。仕入れ先を1カ所に依存している場合は、この機会に複数の供給元を確保しておくことをお勧めする。

対応策3: 電力コストの削減

電力料金が16%上がるなら、使用量を10%削減できれば実質的な負担増は6%程度に抑えられる。古い冷蔵庫のパッキン交換、営業時間外の空調オフの徹底、LED照明への切り替えなど、設備投資が不要な節電策から始めるのが現実的である。

今後の注目点

短期的には、ホーリーウィーク(4月13〜20日)の消費動向が鍵になる。フィリピンではホーリーウィークは国内最大の旅行シーズンであり、セブやボホールなど観光地の飲食店・土産物店にとっては書き入れ時である。今年はコスト高にもかかわらず旅行需要自体は堅調と見られており、観光地の事業者はこの時期の売上を最大化する準備をしておく必要がある。

中期的には、政府の米価格上限政策がどこまで維持できるかが焦点である。輸入米P50/kgの上限は消費者と飲食店には助かるが、輸入業者にとっては利益を圧縮する措置であり、供給量が減れば品薄になるリスクもある。また、ペソが60ペソ/ドル台を維持するようであれば、輸入品全般のコスト増が長期化する。

日本企業・ビジネスパーソンが意識すべき3つのポイント

1. コスト三重苦を前提に収支計画を見直す
フィリピンで飲食店・小売店を運営する日系企業は、燃料・食材・電力の同時上昇を「一時的なもの」と楽観視しないことが重要である。中東情勢が落ち着くまで原油高は続く見通しで、少なくとも2026年上半期はコスト増が続くと想定した収支計画を立てるべきである。

2. 政府の価格安定策を活用する
輸入米P50/kg上限、Kadiwa廉価米販売拠点(全国627カ所)、農務省の食品供給安定策——これらは外国企業も利用できる。特に飲食店を運営している場合、Kadiwaの拠点から米を調達できれば仕入れコストを抑えられる。最寄りの拠点は農務省(DA)のウェブサイトで確認できる。

3. 従業員の通勤手段を確保する
ジプニー停止は一時的な問題ではなく、燃料価格が下がらない限り繰り返される構造的な問題である。フィリピンで事業を運営する日系企業は、従業員向けのシャトルバス運行、交通手当の支給、近隣住民の優先採用など、通勤手段の確保策を検討すべきである。人手が足りなければ営業ができない——この当たり前の事実が、今のフィリピンでは経営リスクになっている。

主要ソース:
Rappler(4月6日)
Daily Tribune(4月7日)
Philippine Daily Inquirer
Philippine Star(4月6日)
Philippine Star(3月13日)

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