マニラ電力(Meralco)が5月12日、5月分の発電料金の値上げ幅を当初想定の1キロワット時あたり1.0277ペソから0.4350ペソに引き下げる方針を発表した。約58%の圧縮幅で、エネルギー規制委員会(ERC)も容認の姿勢を示している。同日、Petron、Seaoil、Shell Pilipinasなどの元売り各社はディーゼル価格を1リットルあたり9.57ペソ値下げ。4月14日以降の累計値下げ幅は68.34ペソ/Lに達する。一方ガソリンは0.47ペソ上昇、LPG(液化石油ガス)は11キロシリンダーで13.42ペソ上昇。マニラ首都圏の飲食店・小売・屋台オーナーにとって、5月の現場コストはエネルギー種別ごとに二極化する局面に入っている。
マニラ首都圏の事業者にとって、エネルギー4種のうち下がっているのは「Meralcoの値上げ幅圧縮」と「ディーゼル」の2つ、上がっているのは「ガソリン」と「LPG」の2つだ。事業形態ごとに、どのエネルギーへの依存度が高いかで、5月の家計収支が大きく分かれる構造となっている。
飲食店オーナーにとって、Meralcoの圧縮は冷蔵庫・エアコンの電気代を抑える効果がある。気温が高い5〜6月はエアコン稼働が増える月で、値上げ幅が0.5ペソ前後で収まれば、店舗運営の予算組み立てがしやすくなる。一方LPGの13.42ペソ値上げは、ガスコンロを使う厨房に直撃する。月平均5本のシリンダーを使う店なら月67ペソ(約160円)の負担増、20本使う大型店なら月268ペソ(約640円)の負担増となる。金額自体は小さく見えるが、年率に換算すると無視できない積み上がりとなる。
配送・運送業を兼ねる小売店、宅配サービスを提供する飲食店にとっては、ディーゼル-9.57ペソが直接的な追い風だ。4月14日以降の累計-68.34ペソは、ディーゼル1L =1ペソあたりの相対コストとしてかなり大きい変化となる。一方、配達バイクやスクーターを使う店は逆にガソリン+0.47ペソの影響を受ける。ガソリンとディーゼルを使い分ける宅配インフラのある店なら、ディーゼル車両のシフトを増やすという選択も合理的な対応となる。
Meralco値上げ幅
ディーゼル累計
LPG 11kg
「5月の現場コスト」をどう読むか
5月のコスト動向を読むうえで、3つの背景を押さえておきたい。
第一に、Meralcoの値上げ幅圧縮は「既存電力供給契約に基づく前倒し調整」を活用したものだ。前倒し調整は一時的な手段で、6月以降に同じ仕組みで圧縮を続けられる保証はない。中東情勢を受けた発電燃料コスト上昇とペソ安が背景にあるため、本格的な圧縮局面が続くには国際エネルギー価格の落ち着きとペソ高転換が必要となる。5月の圧縮効果を6月以降も前提に予算組みするのは早計だ。
第二に、ディーゼル4週連続値下げの背景は世界市場の在庫増だ。5月8日時点のフィリピン国内燃料在庫は50.70日分(前週53.71日分から減少)。世界的な原油需給の緩みが落ち着けば、ディーゼル値下げ局面も終わる可能性がある。月次の固定運用ではなく、「来月のディーゼル価格は当面下がる前提だが、9月以降の見通しは不確実」と織り込むのが現実的だ。
第三に、バークレイズが5月12日に2026年フィリピンGDP予測を3.6%から3.0%へ大幅に下方修正したことだ。新型コロナ禍を除けば2009年(1.4%)以来18年ぶりの低成長予測で、中央銀行(BSP)に対し5月(臨時)、6月、8月の3回連続0.25ポイント利上げを織り込み、年末政策金利5.25%を予想している。中小事業者にとっては、来店客の財布の紐が固くなる局面が予想されるため、薄利多売型の客数確保ではなく、利益率を守る方向で5〜6月の戦略を設計する価値が高い。
Meralcoの5月分請求書は5月下旬〜6月上旬に届く。確認すべきは「Generation Charge(発電料金)」の項目で、4月分の数値と比較する。当初想定通りの+1.0277ペソ/kWhで請求されていれば、ERCの圧縮承認が反映されていない可能性があるため、Meralcoカスタマーサービスに問い合わせる価値がある。ディーゼル価格は週次で変動するため、配送業者との契約は「月内固定単価」ではなく「週次見直し」型の方が双方に有利となる場合がある。
明日からやれる4つの実務
第一に、エネルギー別の月次コストを店舗単位で見える化する。Meralcoの電気代、LPGのガス代、ディーゼル・ガソリンの車両燃料費を、4月実績と5月実績で並べて把握する。スプレッドシート1枚で十分で、店主自身が月初に5分で更新できる形にしておくと、コスト判断のスピードが上がる。
第二に、メニュー価格の見直しは「全品値上げ」ではなく「LPG影響メニューだけ調整」が合理的だ。揚げ物・煮込み・焼き物などガス火力に依存する商品は原価率が上がっている。これらだけ価格を5〜10ペソ上げる、または量を微調整する。一方で電気調理のサラダ・ジュース・スムージーは原価が安定するため据え置きで構わない。
第三に、配送業者との契約条件を再交渉する。ディーゼル累計-68ペソは配送業者のコスト構造を大きく変えている。配送費の据え置きや値下げを交渉する余地があり、特に複数店舗から発注がまとまる仕入れ業者には「単価の下方見直し」を打診する価値がある。値下げが取れなくても、配達回数を増やしたり、配送時間を選んだりする柔軟性を引き出せる可能性がある。
第四に、GCash・Mayaのキャッシュバックや手数料優遇を見直す。BSPの利上げが進めばカードローン・分割払いの利息が上がり、消費者の現金志向が強まる可能性がある。GCash・Mayaなど決済アプリのキャッシュバックを店頭で訴求すると、来店客の単価を守りやすくなる。アプリ側の月次キャンペーンを店舗チラシに反映する手間を惜しまない。
注目すべき今後の動き
第一に、6月のMeralco料金だ。5月の圧縮が前倒し調整による一時的な措置である以上、6月分が再び大幅な値上げになる可能性は十分にある。Meralcoが6月初旬に発表する6月分料金は、上半期のコスト見通しの分岐点となる。
第二に、BSPの臨時利上げの有無だ。バークレイズが予測する「5月の臨時利上げ」は通常の金融政策会合の外で発動される異例の措置で、これが実施されればフィリピン経済の深刻度を市場に強く印象づける。一方、通常の6月会合まで据え置きであれば、市場の見方も穏当に収まる。臨時会合の動向は週次で注視する価値がある。
第三に、6月8日からの新学期だ。教育省(DepEd)覚書27号でSY2026-2027の新学期が6月8日に確定し、201授業日の三学期制(Term1〜3)で運用される。文房具・制服・教科書の購買ピークは5月下旬〜6月初旬で、家計の支出が増える時期と燃料・電気代の動向が重なる。新学期商戦の準備をする学用品・小売店にとっては、5月後半の在庫計画と人員配置が勝負どころとなる。
日本企業・ビジネスパーソンが意識すべき3つのポイント
第一に、フィリピンに進出している日系外食・小売・宿泊事業者は、エネルギー別コスト動向の二極化を5〜6月の予算組みに反映させる必要がある。Meralcoの圧縮効果は一時的、ディーゼル値下げは需給次第、LPG・ガソリンは上昇圧力という構造を踏まえると、月次のコスト試算は「圧縮継続シナリオ」「値上げ反転シナリオ」の2本立てで持っておくのが現実的だ。
第二に、現地スタッフへの説明と給与調整を含めた人事対応が、5月後半の経営課題となる。フィリピンの4月インフレ率7.2%は3年ぶり高水準で、現地スタッフの家計を直撃している。日系企業の現地法人は、給与改定や現金支給型ボーナス(5月のサンタクルサン・フィエスタ商戦に合わせた特別手当)の検討を、6月以降の人件費計画に組み込むタイミングだ。
第三に、バークレイズの2026年GDP下方修正と臨時利上げ予測は、フィリピン全体の事業環境が「インフレ+低成長+利上げ」というスタグフレーション局面に入る可能性を示している。日系金融機関、商社、製造業の本社側は、フィリピン現地法人の中期計画を「下方リスクシナリオ込み」で再点検する時期に入った。中央銀行(BSP)の5月会合の動向、6月メラルコ料金、6月8日新学期、これら3つを6月初旬に重ねて確認することで、現地の経営状況をリアルタイムで読める。

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